2000年前の゛リアル゛が詰まった本
約2000年前、ヴェスヴィオ火山の噴火で埋没した街ポンペイの壁に残された、古代の人々のリアルな落書きについて著された本です。
私が特に印象に残っているのは、サビナ・ポッパエアについての落書きです。
「サビナよ、いつまでも花のように、少女のままでいておくれ」
こんな言葉が当のサビナの自宅の壁に落書きされていたそうです。ポッパエアはあの有名な皇帝ネロのお后で、少女の頃から美貌で有名だったそうなので、きっとサビナに惚れていた近所の男の落書きなんでしょうね。勿論こんなロマンチックな落書きだけではなく、やはり罵詈雑言の落書きも残っているようで笑えてきます。まさにトイレの落書きのようなものから選挙の自薦他薦ポスターまで多岐に渡り、バラエティに富んでいます。
読んでいると、2000年前の人々に交じって飲み屋でワイワイガヤガヤしながら一緒にお酒を飲んでいるような、そんな心地すら覚えそうな本です。
紀元79年8月24日のその朝以降、ポンペイは時間の止まった町である
紀元79年8月24日のその朝以降、ポンペイは時間の止まった町である。ヴェスヴィオ火山の噴火が「生き埋め」にしてしまった古代ローマの地方都市。考古学者たちによって厚さ6mの溶岩と火山灰を取り除かれたとき現れたのは、都市の建物、町並みは無論のこと、まるで昨日までそこで営まれたかのような人々の生活だった。たとえば、円形競技場の剣闘士控え室で、高貴な身分の女性と思われる遺体が剣闘士のそれと共に発見された。古代ローマの「道ならぬ恋」のひとつが、二千年の時を経て、無粋な考古学者の目の前に引き出された。 遺跡や遺体ばかりではない。再び太陽の下に現れた古代都市の街角には、今も一万を超える落書きが残っている。古代ローマの文明の偉大さを示す公共施設や都市遺跡に、当時の人々の嘆きやつぶやき、ささやかな野心や怒りといった、ポンペイ市民の「肉声」が書き込まれている。それも、ついさっき書かれでもしたように。 たとえば友人や自分たちの代表を議員にしようという「落書きによる選挙ポスター」。新しい興業の広告の落書き。居酒屋の壁に書かれた大酒のみの落書き。女の家の壁に書かれた、何人もの違った男の名前。来ぬ人を待つ間、街角に書かれた相手の名前。それから愛にやぶれたものの漏らすため息。「私は大理石でできたヴィーナスなんて欲しくない」。「恋をするものはみな死んでしまえ」。 ポンペイの町中に、壁という壁が落書きで埋めつくされている。中にはこんな落書きもある。それも同じ文句が、それぞれ違った人によって4箇所も書かれている。「おお壁よ! こんなに多くの落書き人の愚行に力を貸して、お前は崩れてしまわぬのだろうか」
中央公論社
ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) 新潮文庫 ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) 新潮文庫
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